アメリカ外交の失敗

いま世界でヤバい紛争地といえば、ウクライナ、イスラエル、台湾、の三つです。これ、全部アメリカが深く関与していますよね。全ての紛争において、いまの悪い状況をもたらしているのはアメリカの責任ではないのか。

今注目を浴びているミアシャイマー教授の動画が非常に勉強になります。教授の意見は、

  • 民主主義国が良い国で、独裁国家が悪い国、という区別はなく、全ての国が同じ論理で行動する
  • ウクライナ戦争を引き起こした責任はプーチンではなく西側にある
  • ウクライナ戦争は一年後に集結する見通しで、結果はロシアの勝利に終わる
  • 中国の経済発展を援助したのはアメリカの最大の誤り

というものです。いかがでしょうか。多くの人の直感に反する意見で、容易に受け容れがたいですよねw もう少し詳しく掘り下げてみます。

アメリカの思い上がり

1990年代初頭に冷戦が終結しました。それまで対立していた米ソ二大巨頭の時代があっけなく終わり、世界はアメリカ単独支配の一極構造時代に移ります。ここでアメリカのエリート層は大きな勘違いをしてしまいました。それは、「リベラルな民主主義体制こそが唯一の正解であり、世界の全ての国が目指すべきゴールである」という認識です。これは全くの思い上がりでした。しかしアメリカのエリート層は自らの過ちに気付かず、強大な力を背景に世界中のアンチ・アメリカ国家に介入しまくります。パレスチナ、アフガニスタン、スーダン、ソマリア、イラク、と挙げればキリがありませんが、全て失敗に終わります。これらの介入は、アメリカエリート層の善意から生まれたものかも知れませんが、それは介入するアメリカから見た一方的な善意であって、介入される側からすればただの攻撃にすぎません。当然ながらアメリカに介入された国々にはアメリカに対する大きな憎悪の感情が残りました。それが引き起こした典型的な反撃があの9.11であり、独善的な価値観の押し付けがいかに深刻な反発を生むのかアメリカのエリート層は学ぶべきでした。しかし、彼らはまだ正しく学べていないのだと思います。自分たちが善なる存在で、善意の行動を形にしているだけという確信がある限り、反発する国の人びとの気持ちを本当に推し量ることはできないのです。

ミアシャイマー教授は、「本来リベラルとは異なる価値観に対して寛容でなければならない。相手が最終的に自分と異なる意見や立場を選択する自由を尊重し、どんなに嫌でも耳を傾けなくてはならない」と言います。正にその通り。そして、リベラルなはずのアメリカエリート層が、共産国家や独裁国家やイスラム教国の価値観をどうして尊重できないのか、理解に苦しみます。まあアメリカ人は無邪気であり、そこが傲慢さに繋がるんでしょうね。われわれ日本人は別に自分たちがエラいともイスラム国家が間違っているとも思いませんし、自分たちの価値観を押し付けようなんて発想は更々ありませんよね。個人的には、中国やロシアの独裁国家にも彼らなりの存在理由があるんだろうなと思っています。中国はあれだけの人口を抱える巨大な国で、多分少し統制が強いくらいの社会システムでないと隅々までコントロールできないんだと思います。アメリカだって国のシステムは合衆国という違う統治制度の州の集まりですから、中国も合衆国が似合ってるんじゃないでしょうか。まあしばらくは共産党統治が続きそうです。習近平も大変ですよね。私なら任期二年で退任して過去の栄光で隠退生活送る方がよっぽど楽で愉しいと思っちゃいますがw

良い国、悪い国、は存在しない

ミアシャイマー教授の基本認識の出発点なのですが、国際政治の世界には警察がいません。なので誰か紛争を聞き届けて仲裁してくれるというわけにはいかないのです。そうなると完全な弱肉強食のパワーがモノを言う世界。アメリカ人は自分たちのことを善人だと思い込んでいるでしょうが、やっていることはロシアや中国と何も変わらない。自分たちにとって都合の悪い政権を引っ繰り返してクーデターを起こし、親米政権を樹立する。CIAがずっとやってきたことであり、今も、今後も、同じことをやり続けるでしょう。自分たちが思っているほど、アメリカは善人ではないのです。

結局のところ、どの国もやることは同じで、いかに自分たちの国を強くするか、しか考えていません。さすがに西側先進国が領土の拡張を望むことはないでしょうが、それでも中欧・東欧の各国をNATO体制に引っ張り込んだのは、ロシアからすれば領土を侵略されているに等しい。1999年のポーランド・チェコ・ハンガリー、2004年にはスロバキア・ルーマニア・ブルガリアとバルト三国がNATOに加盟しました。ロシアからすれば旧共産圏の同盟国を引っ剝がされる行為は怒り心頭だったでしょう。ただ当時のロシアは国力が弱体化していたから、強く反発できなかったにすぎません。大きく状況が変わったのは2008年のウクライナとグルジアのNATO加盟問題です。ウクライナは旧東側の中枢国で、ロシアと直接国境を接しています。そのウクライナをNATO陣営に引っ張り込む行為は、さすがにロシアは容認できません。堪忍袋の緒が切れたのが今回のウクライナ戦争であり、この責任は西側、特にアメリカに責任があるとミアシャイマー教授は断言します。まあ仮にメキシコやカナダに親ロシアまたは親中政権が樹立されたらアメリカは容認するのか、と考えれば、ロシアが本気で怒るのも当然ですよね。事実ドイツのメルケル首相とフランスのサルコジ大統領はウクライナのNATO加盟に強く反対していました。押し切って進めようとしたのは明らかにアメリカ・ブッシュ政権の判断ミスなのです。

自分たちが正しい、相手が間違っている、という認識をやめ、ただ相手も自分たちの生存のために現実的な選択をしているだけ、というのがリアリストの認識。なんとなく人の血が通っていないサイコパスの臭いがしますがw、正しいんでしょうね。我々は異なる価値観を認めるというリベラリズムの根本を思い出さなければなりません。

ウクライナ戦争の見通し

ミアシャイマー教授はウェストポイント陸軍士官学校を卒業後にアメリカ空軍に将校として5年在籍した経験があります。その経験から、今回のウクライナ戦争は極的な消耗戦であり、消耗戦の戦局を左右するのはまず兵力、そして火力だと言います。その意味では、ウクライナに比べて3倍の兵力、10倍の武器弾薬を所持するロシアの勝利は動きません。恐らくあと一年程度は戦争が続き、最後はロシアの勝利に終わると予想します。西側にとっては悪夢ですね…。仮にロシアが負けそうになれば、ロシアは核兵器の使用を決断するので、西側は全面核戦争を恐れてその時点で戦争を終結せざるを得ない。つまりどう転んでもロシアの負けはないのです。

恐らくロシアはロシア語を話すロシア系民族の支配エリアを占領して、ウクライナ人支配州までは占領しないでしょう。最終的にウクライナ国土の約43%を支配下に置く決着を予想しています。そしてその決着は和平条約ではなく、北朝鮮と韓国が38度線で向き合ったまま休戦状態にあるように、一時的な休戦協定が結ばれるだけと述べています。ウクライナは機能不全なままロシアと西側との中間緩衝地帯に棚上げされてしまうわけで、大変不幸な結末ですね。そしてこの事態を招いたのは、ロシアではなくアメリカなのです。

対中政策の失敗

もう一つミアシャイマー教授が指摘しているのが、アメリカの対中国政策の失敗です。冷戦後に鄧小平の改革開放政策が発動し、その経済発展を後押ししてきたのは他でもないアメリカでした。アメリカのエリート層は、中国が経済発展すれば西側先進国のような大人の友好的な隣人が生まれると考えたのですが、現実はアメリカの脅威になるライバル国を育ててしまいました。ここでもまたアメリカは傲慢さ故に判断ミスを犯し、自分たちの敵を強くしてしまったのです。なので現在の対中封じ込め戦略は至って当然の判断で、最終的に中国の国力をどの程度抑えられるかは分かりませんが、これ以上中国を強くするわけにはいかないのです。

中国は高付加価値品目は作れないようにコントロールして、ただの安い汎用品の工場にとどめるのが世界の国益でしょうね。となると、これは日本に取ってチャンスとも言えます。高級品の製造大国として地位を回復することができれば、中国に変わってまた存在感を示せるかも知れません。考えてみれば日本も中国の経済発展に大きな貢献をしていて、最先端の製造設備を中国に輸出して生産国移転を進めちゃったんですよね。失われた30年は日本から中国に国富が流出した30年と言えるので、日本は本当に辛い時期を過ごしました。その大きな潮目の変化がいま起きているのです。今度こそチャンスを掴み損ねないように、官民挙げての対中製造力奪還体制が求められています。中国向けの高度製造設備の禁輸は徹底すべきですね。

ちなみにミアシャイマー教授の見立てでは当面中国による台湾侵攻はありません。その理由は、戦争を仕掛ける側にとっての実務的な理由です。つまり現代の高度監視社会では敵の動きは丸見えで、特に海を越えた上陸作戦の遂行は困難を極める。迎え撃つ側が容易に撃退できるので、特にウクライナ戦争の戦局の推移を注視している中国軍部は台湾侵攻を余計にためらうはずと。地続きのウクライナでさえ大量の兵力の輸送や補給兵站線の確保にあれだけ苦労するのですから、洋上作戦の困難さは素人目にも明らかですよね。なので徒に不安を煽る必要はないと思います。ただし一つだけ注意点があって、絶対にしてはならないのは台湾の独立宣言です。これは中国に対する宣戦布告に等しい。今のまま中途半端な状態がキープされることが現状維持の最善策なのであって、余計な現状変更の働きかけはウクライナ戦争のような最悪の状況を招きます。アメリカ大統領はその愚をよく理解していると思いますが、問題はアメリカ議会による暴走。いつの時代もバカをする議員は一定数いますから、リアルに戦局を分析できない理想論で動く勢力が間違いを犯すとヤバい。突発的な事態が起きないことを祈ります。

日本の進むべき道

ミアシャイマー教授は日本については触れていませんので、日本がこれからどうすればいいのか考えてみましょう。

第一は、アメリカ追従路線の継続です。色んな意見はあるでしょうが、アメリカが今後も世界一のスーパーパワーであることは誰の目にも明らかです。であれば、そのアメリカの袖を掴んで付いていくのは立派な生存戦略です。戦後ここまでの75年間はまさにアメリカ追従路線が成功した発展の歴史でした。これを変える必要は全くありません。

ただし、何でもアメリカの言うことを聞くしかないわけではなく、アメリカのミスリードには毅然と反論すべきです。アメリカのエリート層が完全無欠ではないのは上で見たとおり。そしてアメリカエリート層は一枚岩でもありません。どこまでアメリカの干渉を振り切れるのかはわかりませんが、日本はあくまでも独立国として日本の国益を追求すればいいのです。アメリカ追従は日本の国益に沿う限り、という但し書きがつきます。

大事なのは、敵を作らない、ことでしょうね。これは今までの日本は上手にやってきましたし、もう日本人の持ち味になってしまったと思います。今さら相手の価値観を無視してこちらの都合を押し付けることはないし、そもそも八百万神の精神はリベラルなのです。日本なら、イスラム国家とも独裁国家ともそれなりに礼節を尽くしたお付き合いができるでしょう。イデオロギーではなく、商売に徹するのがお互いのため。高付加価値な製造品の輸出、相手国へのインフラ投資、食やコンテンツの輸出、インバウンド、が今後の日本の柱でしょう。一番の強みは日本人の持つ親しみやすいパーソナリティです。そこは今まさに世界に日本ブームを巻き起こし、中長期的に日本という国の価値を高めてくれるパワーの源泉。私たちは自信を持って今までと同じ日々の営みを続けていけばいいのです。唯一望むのは、もう少し次の世代を産み育てる意識を持つこと。ポジティブな明るい雰囲気をつくることで、若者に楽観的な気分になってほしい。それが我々オジサン世代の役割かなと思います。

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