MINIを貶すつもりはないんですが、旧型MINIが新型に変わり、その後もどんどん大きくなり、挙げ句の果てにCrossoverなんて派生車種がリリースされるのを目にして、「こういうクルマが売れたら終わりよね」とクルマ好きの知人と嘆いたのを覚えています。結果はどうなったか。バカ売れですw
このエピソードから導き出される考察には二つあります。一つは、業界の常識の通りにマーケットが動くとは限らない、というマーケティングの現実。なまじ経験や知識があるが故に、業界人には染みついた先入観という大きな敵がいます。「こんなの売れないよ」「こういうのがウケるはず」というマーケッターの予測が何度外れて大恥かいたか。本当に予測はアテにならないと痛感しています。この問題の根底にあるのは、感情と論理の対決だと思います。つまり多くの人が、冷静な事実や客観的な理論を直視できず、感情に動かされて判断をしてしまう。時にリアリストの意見は、ロマンティストには刃を向けられているような敵意を感じてしまうのです。私の知人の食材インポート会社の社長はいつも言っています。
流行らないレストランはシェフの自己満足に囚われている。お客が入らないのはお店が独り善がりになっているから。多くのお客に支持される、ウケる味が正しい
これ、結構思いあたる人多くないですか? そして、頭では分かっているけど、やっぱり心情として受け入れたくない、と思う方も多いでしょう。私もこう思うタイプです。ロマンと実利のどちらを取るか。結構大きな経営の一大テーマなんじゃないでしょうか。
会社やお店を始めるとき、それは誰かの情熱に動かされています。そこにはなにか始める動機があるはずです。本来あるべきサービスや機会が得られないという欠乏感。期待を裏切られた怒り。自分の想いを抑えられない衝動。言ってしまえば、これらは全部ロマンです。その時考えるのは、売上ではなく、周囲からの賞賛ですよね。「こんなサービスを待っていた」「良い賞品だね。ありがとう。嬉しいよ」という褒めことばなんです。ロマンがなければ、誰がリスクを負って先の見えないビジネスの道に踏み出すでしょうか。理屈より感情で、まずはスタートするのです。
しかし、創業から時間が経つと、段々現実がプレッシャーとして押し寄せてきます。目の前には支払うべきコストが山積み。従業員の人件費、家賃、仕入れ。自分の給料を後回しにしても追いつかない毎日。金策に追われ、いつか自分がなんのために商売をやっているのか分からなくなってきます。リアルがロマンに勝つ瞬間の到来です。
ここが勝負の分かれ目。選択肢は二つ。ロマンを捨ててリアルに走るか、自分のロマンと共に討ち死にするか。これを読んでいる人がどう思われるかわかりませんが、多くの経営者は後者を選ぶのです。そうでなければ創業からの10年後廃業率が90%なんてことにはなりません。みんな数字のリアルに押しつぶされそうになりながら、それでも創業の志と心中するのです。
振り返ると私はラッキーでした。創業から目の前の売上を追いながら、自分がやりたかった独自のサービスを立ち上げ、幸いにもそれが一定の評価をいただきました。この栄枯盛衰の激しいIT業界で、25年以上続いているという事実は軽くはありません。でもそれが自分の才能だったと思ったことはありません。なぜなら、「おちゃのこネット」以外にも多くのビジネスを試し、結果的に上手くはいっていないから。自分に狙ってビジネスを当てる才覚はないのだと、最近は受け入れられるようになりました。ラッキーとはどういうことか。それは正しい時期に正しい場所に立っていること。一緒に同じ目標に向かって走ってくれる仲間がいてくれたこと。時代の波に上手く乗れたのは、経営者の才能でもなんでもなく、運だと思います。
おちゃのこネットをやっていて一番辛いのは、サービスを使って頂いているお客さまが退会していかれること。その理由を可能な限り伺うようにしているのですが、他社に移られるのはこれはウチが不出来な所為なのでしかたない。なんともやるせないのは、お客さんが廃業していかれることです。これ、多いんですよ。
経営者として必要な才覚って凄く難しくて、それは相反する二つの要素をバランスよく兼ね備えることなんだと思います。ロマンとリアル。俯瞰と観察。優しさと厳しさ。
商売って大変ですよね。でもだからこそ、チャレンジする価値があるともいえます。共に頑張りましょうね。
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