皆さんは日本の街中の電線の存在を意識したことはありますか? 私の住む芦屋市は割りと早くから景観保護の取り組みが行われていて、市中に電線が殆どありません。電線の地中化というのは最近注目されている都市デザインの重要な要素ですが、コストと得られる価値への理解が進まないのか、放置状態の都市が多く見受けられます。
息子がロンドンにいるので昨年は何度か訪問する機会がありました。久しぶりに歩くロンドンの街並みはとても綺麗で、あちこちが装花で飾られていて感心しました。エリアによって自治体の懐具合に差があるのでどこでも全部という訳ではありませんが、それでもロンドン市民は美しい景観の価値をとても深く理解しているように思えます。翻って日本はどうか。
典型的なのは京都なのですが、個人的には最悪です。恐らく初めて京都を訪れた外国人観光客の多くは、街並みの汚さにガッカリしているんじゃないでしょうか。皆さんも一度客観的な目で見てみてください。確かに歴史的な建築物は多く残っていますが、それらは雑然とした雑居ビルや、全体の景観に何の配慮もされていない新しい建物の間に埋没しています。ロンドンを始め欧米の各都市の石造りの美しい街並みとは雲泥の差です。これを多くの日本人はちゃんと認識していないと思います。
もちろん日本に景観やデザインに関するセンスが全く欠落しているわけではありません。美しい建築物も沢山作られていますし、外観に制限を設けて景観を守ろうとしている自治体や居住区も増えています。そもそもデザイン性の高い暖簾や調和の取れた町家など、日本にも美意識は存在していました。それらが第二次大戦の戦火からの復興や戦後の高度成長期の建築ラッシュ期を、ただ建物を作ることだけに集中してしまった。まあ当時は景観に配慮するだけの余裕がなかったんですよね。だから仕方ない面もありますが、それでも結果的に出来上がったこのごちゃごちゃした街並みをもっと綺麗にしようというモチベーションに欠けていると言わざるを得ない。基本的に土地や建物は私有物なので、何の制約もなければ各々が勝手な思惑でバラバラなものを作っちゃうんですよね。だからそこは都市計画的なグランドデザインを行政がきちんとリードしないといけない。現代の行政当局にどこまでデザイン的な価値の意識があるのか、はなはだ疑問です。
都市の景観に比べれば、プロダクトデザインの世界はもっと簡単なはず。事実日本製の工業製品はそれなりに高いデザイン性を持っています。ファッション、電化製品、クルマ、食事。様々な日常のシーンで、私たちは無意識のうちに高いデザインのプロダクトに価値を認めています。何となく良いよね、と手に取るその製品を選んでいる理由の一つにデザイン性があるのは間違いない。では、Webサイトはどうか?
おちゃのこネットをご提供して20年以上になりますが、実はこの20年でWebのデザイントレンドにも何度か大きな進展があります。ここ10年ほどのデザインのトレンドはフラットデザインと呼ばれるシンプルなテイストですが、これは2013年に登場したiOS 7の影響が大きい。従来のスキューモーフィック(現実の質感を模倣したデザイン)からフラットデザインへの転換は大きな影響を与え、世界中のデザイナーが追従しました。これはスマートフォンの登場と、それに対応したレスポンシブデザインの採用にも理由があります。PCの大画面とスマホの小さな画面を高度に統合するには、ミニマムデザインに振ったフラットデザインが適していたのです。
ところが残念なことに、多くの古くからのネットショップは、下手するとXHTMLの古くさいデザインをそのまま使い続けています。これはとても大きな損失で、恐らく多くの訪問者はそのお店に対するイメージをネガティブなものとしてインプットするはず。その損失の大きさに気付いていない経営者がとても多いのです。
世の中の多くのことは、いきなり一朝一夕にガラッと変化はしません。しかし5年、10年という単位では、着実に何かが変わっている。それに気付くか気付かないか。残酷な言い方をすると、老害かどうかの分かれ目がそこにあるのです。もちろん自分のショップのデザインをどうするか、自分のお店の外観をどう印象付けるか、決めるのはオーナー自身です。でも、伝統的なデザインと、古くさいデザインの違いはありますよね。クラシックなテイストでも、そこにモダンな要素が盛り込まれていれば、誰もそれを古いとは嗤いません。老舗は何もしていないのではなく、常にアップデートし続けてきた歴史の堆積なのです。誰だって自分の店を古くさいとは言われたくないですよね? 一度立ち止まって、身近な若い方の意見を聞いてみてください。「ウチのお店ってイケてると思う?」と。もし相手が口ごもったら、何かを見直すべきなのかもしれません。個人的には、デザインのブラッシュアップがお店のブランディングの一番の近道だと思います。思いあたるフシがおありなら、一度ご相談くださいね。

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