営業スタイルの変化

私が新卒でリクルートに就職したのは平成元年、つまり1989年のこと。まだインターネットが普及する前のことです。今や石器時代ですねw 西暦はキリストの生誕を基準にADとBC(Before Christ)を使い分けますが、正に現代はインターネットの登場前と後で時代が分断されてしまいました。インターネットは社会のすべてを変えてしまったのです。

当時は文系の学部を出て特に専門的なスキルを持たない学生は、営業職に就くのが当たり前でした。バブル絶頂期だったので、多くの同期が銀行や証券会社などの金融系に就職していきました。新卒大量採用だったので、同期が1千人いるということも珍しくなかったのです。信じられませんよね。その多くは入社して数ヶ月の営業研修を経て、ビジネスの最前線に新規開拓の営業マンとして放り出されたのです。私も研修中の名刺獲得キャンペーンに始まり、帝国データバンクのコピーを元に新規アポ取りの電話掛け、殆どアポは取れないので飛び込み営業でビルを上から下まで全部ノックして回る、なんて体育会系丸出しの営業をしていました。当時はそれが当たり前だったのです。

一番の関門は受け付け、もしくは総務の代表電話を突破することでした。普通に電話しても切られるだけなので、営業マンはみんなそれぞれがトークを工夫して現業部門に繋いでもらう技を磨いたのです。一つは、実在する部門名を把握すること。部門名を名指しで部長宛のコールをすると、運がよければ当該部署に電話を回してもらえました。そこで少なくとも企画担当なり販促担当者なりと話せれば、アポが取れる確率が上がります。頑張って一件アポを取れたら、今度は訪問先でCIA並みの情報収集です。会議室の内線番号表から部課長と思しき方(付けの配置表で判断できます)の内線番号をメモし、それが概ね外線の下4桁なので電話が繋がる、という要領です。何とも効率悪いんですが、逆に言うとそれしかアプローチ方法がなかったんですよね。一旦社内に入れたら、可能な限り勝手に社内をウロウロして声掛けする、なんてこともやりましたが、保険の営業レディともどももうこのスタイルは使えませんよね。

これがインターネットの普及後は様変わりします。今はネットでキーワードリスティング広告を打つのが基本。これにリダイレクト広告を組み合わせて、閲覧者の興味関心に合わせたランディングページに誘導します。広告の出稿先はGoogle/Yahoo!と主要SNS(Instagram/Youtube/Twitter)を押さえます。これらは全てPull型の営業スタイル。つまりこちらからゴリゴリ商品提案アプローチをするのではなく、興味のある人に見つけてもらうのが基本。ネット広告だけではアプローチできない場合はリアルな展示会への出展という手段も取られますが、意味としてはPull型営業ですよね。

こうなると営業マン、というかマーケッターに求められるアクション内容も必要な資質も全く変わってきます。見ず知らずの人に厚かましい電話をかける鉄メンタルではなく、大量のデータを元に仮説検証を繰り返せる根気。昔の体育会系のお兄さんたちは今何をしてるんでしょうねw わずかに見受けられる古いスタイルの営業マンは、人材業界と製薬業界に生息してはいるようです。それもMRはコロナ禍対応でオンライン化が進み、対面アプローチは絶滅しつつあるそうなので、今や派遣・紹介業界にしかオールドスタイルは残っていないかもしれませんね。Pull型の営業スタイルが定着した現在では、新規開拓のメンタルよりもフォロー型の丁寧な追い客の方が大事かもしれません。

ECにおいてはこれが更に進んで、もはや営業という用語も耳にしなくなります。ここで大事なのはマーケティングよりも、むしろマーチャンダイジング。つまり商品力開発です。いかに他店にない独自の商品価値を生み出し、それを伝えるか。面白い、ユニーク、と思ってもらえるかが勝負です。

でもこれって、いいことだと私は思っています。昔の営業はとにかく”非人間的”でした。何件電話したか、何件商談してきたか、が問われ、求められるのは数字のみ。このプレッシャーに負けて、どれだけ多くの新人を潰してきたことか。それに比べると、今はむしろ個性のあるスタッフのキャラが頼みです。狭くても深い知識。誰よりも自店の商品を愛する心。マニアックであればあるほど、顧客の信用を得られる。これってはるかに”人間的”な世界じゃないですか。

だから就活で苦しんでいる若い人がいれば、問うてみたいんです。あなたがやりたいこと、楽しいことは何ですか? 大きな組織の歯車になるより、小さいお店でキープレイヤーになるほうがよくないですか?、と。自宅でニートしてても仕方ないので、オススメは繁華街の面白そうなお店でバイトすることです。古着屋さんでもタトゥー屋さんでもいいじゃないですか。気の合うオーナーさんがいれば、そこで頑張ってお店の手伝いをしてみてください。そのお店で過ごす時間はきっと楽しいはず。そこで集客や仕入れを勉強すれば、あなたも自分のお店が持てる可能性が出てきます。今の時代は、そんな生き方が正解な気がします。

これを読んで眉をひそめたあなた。自分が若い頃とは価値観が違ってるんですよ。我々はインターネット前に生まれたオールド世代なのですから。大事なのは、本人が楽しそうかどうか。その一点です。10年後には格好付いてるんじゃないですかね。

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